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Vol.5 森の国の暮らしぶりから考える森のこと クロストークレポート

2022.03.09 BLOG
Vol.5 森の国の暮らしぶりから考える森のこと クロストークレポート

伊那とフィンランドから考える
森と共生していく方法

■クロストークメンバープロフィール
<講師>
・吉田 恵美さん
東京都生まれ。MSc(Business Economics)。海外実務経験は約20年に及ぶ。2001年から欧州森林研究所(EFI)本部で林産物の貿易アナリスト、人事部長、管理部門の統括責任者を歴任。欧州の林業人材育成を始め欧州各国との外交に携わり、欧州林業分野の人脈を築く。2015年に独立し、株式会社イイノラを設立。ビジネスディベロッパーとして、主に林業・バイオエコノミー分野で日本とフィンランドの懸け橋になるべく、行政・民間レベルの業務提携をサポート。フィンランドと長野県・伊那市の林業提携の交渉を担当し、2019年度の覚書締結以降、提携のコーディネートも担当。フィンランド在住。

 ・青木健太郎さん
1974年静岡県生まれ。信州大学森林科学科卒業後、ヨーロッパ・アルプスの林業国オーストリアに渡る。オーストリア連邦ウィーン農科大学林務官国家資格養成課程修了。同大学にて林務官の高等技術者学位(Dipl.-Ing)ならびに博士号(Dr.nat.techn.)を取得する唯一の邦人。国際応用システム分析研究所( IIASA )研究員、国連工業開発機関(UNIDO)を経て、現在はイタリアのローマにあるFAO本部でアジア・ヨーロッパ地域の持続可能な森林管理、気候変動緩和・適応策に関する気候投資プロジェクトの立案・実施支援に従事。持続可能な森林管理と中山間地域の社会システムづくりのための社会貢献をライフワークとする。信州大学地域共同研究センター客員教授(2014~2017年)。
※講師都合により、クロストーク当日は登壇いただけなくなったため、講座前に頂いた映像資料を受講生で共有しました。

<地域プレイヤー>
金井 渓一郎さん
伊那市生まれ。主に上伊那地域の森林所有者から森林整備、経営を受託する。丸太販売だけでなく、製材所と協働で地域産住宅材の販売、赤松の枝、白樺の皮など林産物の販売に力を入れる。補助金に頼らず、林産物の売上と山主の投資によって森を循環させる林業を実践中。森林所有者が自身の山から利益を得られるように、山を楽しめるように、山に期待を持てるように。そんな森づくりのお手伝いを基本的スタンスに。楽しみより山に対する不安、懸念を抱く山主が多いため、山主と直接対話しながら、山を含めた自身が暮らす地への愛着を深めることを願っている。

誰でも自由に森を楽しむことが

フィンランドでは国民の権利

伊那で林業に携わる金井さんは、DIYでリフォームした古民家で薪ストーブやキノコ狩りを楽しみながら暮らしています。フィンランドで暮らす吉田さんが語ってくれたのは、多くの人が森を散策したりベリーやキノコを狩ったり、森に近い暮らしを送っていること。まずはフィンランドの環境や制度について聞きました。

金井:フィンランドの人が日常的に楽しんでいる森には、それぞれ所有者がいるのですか? それとも公の場所なんでしょうか。

吉田:フィンランドには「自然享受権」があります。「自然はみんなのものだから共有しましょう」という主旨で、誰の森でも自由に散歩をしたり、ベリーやキノコをとったりしてもいいという国民の権利ですね。だから個人が所有する森でも関係なく、使っていい。ただし、権利がある代わりに義務もあります。木は切ってはいけない、ゴミは残してはいけない、狩猟する場合は森林所有者の許可をとることなどがルールになっています。

奥田:そうした森は個人の所有者が整備するんですか? 例えば道をつくって歩きやすくしたり。

吉田:特別な整備はしないです。誰かが何回か歩けば、だいたい道になりますよね。

金井:森でキャンプファイヤーができる場所もあるんですね。数は多いですか?

吉田:キャンプファイヤーができる場所は、市町村や国が提供しているパブリックな森にあります。整備された遊歩道の近くにあって、地図にも載っていますね。

金井:キャンプ場もあるのですか?

吉田:あります。それはテントと言うよりキャンピングカー向けで、森の中というより郊外にあるかな。テントを張って過ごす短期滞在だったら、森のどこでもキャンプしていいと自然享受権で決められていますね。

金井:日本の森は、そこまで入りやすくはないですよね。

フィンランドの人はどうして

森に親しむのか?

フィンランドと日本で、根本的な仕組みが大きく違うことが分かりました。興味深かったのが、吉田さんが話した「フィンランドでは、国民のほぼ100%が森をレクレーションに使っている」というアンケート調査結果。森に入れる制度が前提にあるとはいえ、フィンランドの人たちはなぜ森に行くのでしょうか。

奥田:例えば伊那市にも「市民の森」があるんですが、そこに行く人って数%ぐらいだと思うんです。昔は日本でも、暮らしのために森に入っていたと思うんですよね。キノコをとったり薪をとったり。でも別のアクティビティや遊びが登場して、全然森に入らなくなった。フィンランドの人たちが、なぜそんなに森へ行くのか。どういうモチベーションなのか、聞いてみたいです。

吉田:フィンランドも昔と今で生活は変わっていると思います。現代はオフィスでコンピューターを使って仕事をしますよね。だから仕事の後、リラックスするために外へ行くんです。労働時間が短いのもあると思う。一日が長いですよね。仕事の後に行く場所が、森や自然。本格的なハイキングの服装ではなく普段着のまま、犬の散歩をしながらとか子どもと一緒にとか、30分とか1時間ぐらい歩くんです。1日のリズムの中に森の時間が入っているという感じ。

奥田:教育というか、子どもの頃から森になじみがあるのは大きいんでしょうか?

吉田:そうかもしれません。学校でも授業と授業の間の15分間は絶対外にいなきゃいけないというルールがあって。地方の学校だと森で遊ぶしかないし、通学も森の中を通るので、すごくなじんでいるのでしょうね。

奥田:オーストリアでは子どもたちが毎年必ず森林学校に行くという話がありましたが、フィンランドにもそうした森への関心を高める取り組みはありますか?

吉田:フィンランドでは、歩けるようになったころから幼稚園でも学校でも森林教育を受けます。特別な学校に行かなくても公立学校のプログラムに入っていて、自然の中でやっていけるサバイバル力を鍛えられるんですね。例えば小学校1年生の時は森をどんな格好で歩くかという基本から入って、ベリーをとったり植物を知ったり。学年が上がると自然の権利や自然環境に関わること、持続性についても学びます。自然についても自然の中で教えていく。授業にもすごく森林が関わっていて、例えば森の中で数学の授業をするだとか、色んな方法があります。そして、子どもにすごく考えさせます。基本は、森に対して信頼感を持たせることですね。森は安全な場所、自分にとって危険ではない場所だということを考えさせます。そこから森林との関係をだんだん築いていくと、森林破壊や環境問題が他人事じゃなく、自分の問題になりますよね。それがフィンランドのやり方だと思います。

奥田:日本では、高校生や大学生ぐらいになるとゲームとか読書とか別の遊び方に移っていくと思うんですが、その年代でも森に行くのは当たり前の感覚なのでしょうか?

吉田:もちろんゲームで遊ぶこともあるけれど、例えば高校生も通学の時にバス停まで森の中を通っていくだとか、普段歩く道を少し変えると森に行くとか、わざわざ散歩に行かなくても生活の中に森があって、意識せずに触れていると思います。

ITを活用した設備投資が

林業の未来を変える

幼い頃から森に親しみ、学び、生活圏内に森という存在が溶け込んでいるフィンランド。近年は林業をバイオエコノミー(天然資源枯渇、気候変動、食糧安全保障など地球規模の諸問題を解決して持続的な発展を可能にする概念)と位置付けています。従来よりイメージが変化しつつあるフィンランドの林業について聞きました。

吉田:林業は将来有望な産業だとして期待されています。20年ほど前なら丸太は製材されるか紙になるかパルプになるかだったのが、最近は全然違うものもできるしデザイナーやITとの協働もある。広さが出たと思うんですね。

金井:林業の就業人口は増えていますか?日本では減っていますが……。

吉田:林業全体の川上を見ると減っていると思います。なぜなら機械化されて、人がいなくても回るようになったから。今研究が進んでいるのが、1人のオペレーターが複数の無人ハーベスタ(林業機械)を稼働させることです。車の無人運転のように無人化、ロボット化を進めているので、効率を上げて少ない人数で進められるようになると思います。

奥田:フィンランドは面積が日本の9割あって人口は北海道の9割しかいないことを考えると、資源は圧倒的に豊かだと思います。そして地形がほぼ平坦で林業がしやすい。日本で考えると、それこそ林業従事者が4万人ほどしかいない市場でITを使って自動化しようとしても、市場が小さいのでなかなか誰も投資できない問題があると思うんです。フィンランドの場合はもっと大きく、例えばヨーロッパ全土を視野に入れてアプリケーションや機械の開発をどんどん進めているのでしょうか?

吉田:そうですね。開発したらフィンランドだけでなく国際的に使うことが目的なので、一番いいものを世界で一緒に使っていこうとする。無人ハーベスタも、例えばフィンランドの林業メーカーが出したら他の国にも行きますね。

奥田:日本の地形に適した林業機械はヨーロッパではつくっていないと思うので、課題に感じるところです。

金井:面積に対する森林率は日本とフィンランドで同じぐらいなんですね。何なんでしょうね、あの森との距離感の違い、素敵さの違いは。フィンランドの森の写真を見て感じたのは、草や藪があまり生えていないのかなということです。日本は森の際に草や藪がたくさんあって、森に入りにくいんですよ。そういう影響もあるのかなと。

吉田:それもありますね。でもやっぱり、人が何度か歩くと草も減っていきますよね。

奥田:循環なんですね。人が入るから草が減るし、草が減るから人が入る。

変わる伊那の暮らし

山との新しい付き合い方とは

フィンランドの林業でイノベーションが進んでいる様子が伝わってきます。一方で伊那の森に目を向けると、魅力だけでなくいくつもの課題があります。

奥田:金井さんは森との暮らしで皆さんにお勧めしたい部分はどんなところですか? 大変な部分でも。

金井:林業をやっているし山のそばに住んでいるから、山の暮らしを満喫しています。ストーブの薪をつくるのも楽しいし、キノコや山菜など食材をゲットするのも楽しい。ぜひ体験に来てほしいと思います。

奥田:確かに、生きる場所によってはそうしたことを体験することは一切ないですよね。

金井:ただ、昔は伊那も山のそばで暮らす人が多かったのですが、今はみんな都市部に出ていったり、伊那でも山から離れた場所に移ったりしています。それは山の暮らしが楽しいかどうかということとは別の問題ですね。やっぱり自分で山へ薪を取りに行くより灯油を配達してもらった方がいいとか、その間に別の仕事をした方がいいとか、生活がかかってくると山から離れざるを得ないところもある。そうした流れに逆行してでも山のそばで暮らそう!ではなく、今の流れの中で山の暮らしを楽しみながら、山の恵みを暮らしに享受できるやり方はないのかなと、ずっと考えています。

奥田:いいですね。確かに、平日は会社で働いて土日は家族で出かけるライフスタイルだと森から資源を得ることはなかなか難しいですよね。自分で何かをつくり出すって、かなり時間が必要だと思うので。

金井:楽しい面ばかり話しましたが、森の暮らしには厳しいところもあります。うちは裏のケヤキの枝が落ちて屋根が壊れたんです。やっぱり森が、木がそばにあると倒れてくるんじゃないかという怖さがどうしてもある。日本の山林は斜面にあることが多いので、大雨の時は崩れないだろうかとすごく怖いです。怖いけどその暮らしから撤退するのか、付き合っていくのか。

昭和36年に伊那市で水害があった時の写真を見ると、山に木が少ないんです。当時は薪をとったり住宅に使ったりしていたから。山が暮らしと密接だったということですね。でも今は山を暮らしに使わなくなったがために、うちの裏の山では大きくなった木が風で倒れてしまったし、松枯れでアカマツが倒れている山もある。昔だったら倒れた木はすぐ薪にしたけれど、今は工事が必要でお金がかかります。暮らしが変わったことで、森と人の距離も変わっているのかもしれない。でも森との新しい付き合い方が始まっていくんじゃないかと、僕は思っています。

奥田:悪循環はすごく感じますね。森に手が入らなくなることで生まれる人間との距離感、スパイラルのように離れていく。

獣害と森林所有の問題

日本とフィンランドの違い

山と暮らしが離れたことで、伊那に限らず日本中の山が抱えている課題が話されました。さらに獣害と森林所有の問題も山の大きな課題です。日本とフィンランドを比較して語り合いました。

金井:伊那の山中は今、柵で囲まれています。だから、人間は山に入れない。なぜ柵をつくるのかというと、山にシカがたくさんいるんです。シカが若い草や若い稚樹なんかを食べちゃうから、大きな木を伐ったら新しい森がもう生まれないというぐらい被害が増えています。

奥田:フィンランドでは、クマなど野生動物が出て危険だということはないんですか?

吉田:クマやヘラジカがこれ以上増えてはいけないという数字が決められていて、コントロールされているんです。毎年「今年は何頭処分してほしい」とハンティングのクラブに連絡がいって、ライセンスを持った人たちが連絡し合って狩猟を行います。フィンランドにはまだ狩猟の文化が残っていて、趣味でされている方が多いことも日本との違いだと思いますね。

金井:日本では猟師さんも減っていますよね。

吉田:獣害もそこまでないです。被害としてはオオカミが一番多いかな。オオカミは狩猟が禁止されているんですが、被害が増えているので解禁の話し合いが進められています。

奥田:日本も以前はシカを撃ってはいけなかったですよね。それですごくシカが増えたこともあって、深刻な被害が出ている。

吉田:頭数をコントロールすると増え過ぎることがないですよね。適切に間隔を空けながらコントロールをすることが大切だと思います。

奥田:狩猟をするのは、猟師というより趣味でされている方ですか? 日本で言う猟友会のような組織ではなく?

吉田:皆さんプロではなく、趣味でやっている方ですね。釣りに行くような感じで「今日はハンティングに行く」という感じ。

奥田:森林所有についてもお聞きしたいです。日本では森の所有者が分からなくなっていたりかなり細かく分かれていたりという問題がありますが、フィンランドではそうした問題はありますか?

吉田:フィンランドの森林は100年以上前からある国土省のデータで管理されていて、所有者と土地がすべて分かるようになっています。誰の森林か分からないことは絶対にないし、所有者が亡くなった場合は子供につながれます。細分化については、例えば親から受け継いだ森を子どもたちで分けて土地が小さくなるといったケースはあると思うんですが、そうした時は家族内で相談するか、または売ることもできます。経済的に森林に興味を持っている方は多くて、販売している企業もあるんですよね。2代目3代目の所有者だったり都市部に住んでいたりと森に興味がない人もいますが、そういう人向けに管理をすべて委託できるサービスもあって、流行しています。料金を払えば、小さい森林なら森林計画からすべてやってもらえるんです。

奥田:森に対してすごく皆さんポジティブなんですね。

吉田:もちろん管理が面倒くさいとか、そうした気持ちもあると思うんです。そうした課題を解決するために、新しいサービスが出てきているのかなと思いました。

奥田:伊那も欧州の森林都市を伊那も目指して頑張りたいと思いますので、またぜひ情報交換をさせてください。

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