「自然と共に生きる、を自分ごとに変えていく」をテーマに、元パタゴニア日本支社長辻井隆行さんにお話しいただきました。お話しして頂いた内容を要約して文章にしましたのでよろしければご覧ください。
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アウトドアスポーツで知った、
人間の非力さと人間の活動が自然に与える影響
東京下町生まれの辻井さんは自然に憧れを抱き、バンクーバー島やグリーンランド、パタゴニアでのアウトドアスポーツを楽しみます。その活動の中で人間の非力さと人間の活動が自然にどんな影響を与えているのかを知ります。
衣料の原材料はどこから来るのか、
製品ができるまでの過程にいる見えない人々
アパレルのパタゴニアでは、衣類の原材料はどこから来るのかということを学びました。コットンは食べられない野菜といわれ、栽培中には大量の農薬を、さらに収穫前には枯葉剤が大量に使われています。そのため、がんや脳腫瘍になってしまう農家さんが大勢います。さらに、洋服を縫製する作り手の労働賃金が安すぎること、働く環境が劣悪で命を落とすような事故もたくさん起きています。これは、永遠に成長できると思い込むことによって生まれた競争社会の結果で、出来上がった製品を安く売るために弱い人たちにしわ寄せが来ることに繋がっていきます。
産業革命がもたらした弊害
こうした社会構造のスタートは蒸気機関が発達した産業革命までさかのぼります。それまでとは力も速さも全く異なる石炭を燃やすことで動くタービンが登場したため、急激に発達し、そのことで環境にも大きな変化が起きました。これまで地球上の温室効果ガスは10万年ごとに280ppmまで増え、また減っていくことを繰り返してきましたが、特に1950年から一気に上昇し、2019年には415ppmという驚くべき数値になっています。気温が高くなることで、松くい虫が増えて世界中の木々が枯れ森林火災が起き、ここ日本においては集中豪雨による水害が毎年起きています。このままいくと、産業革命時と比べて2100年には気温が4℃上昇すると言われています。氷河期から今までの気温差は4℃といわれていますが、1万年かけて4℃が上がったものが100年で4℃上がると社会のインフラも生態系もついていけない状況になります。
人間らしい分相応の暮らし
気候変動を止めるためにできることは、温室効果ガスの抑制のために自然エネルギーに変えていくことと出過ぎたCO₂を地球に留めていくことです。そのためには、人間らしい分相応の暮らし、そしてその中での「豊かさ」と「幸せ」を見つけていくことが大事です。
森はひとつの生命体
ブリティッシュコロンビア大学博士のスーザン・シマードさんが、バンクーバー島西海岸にある世界で2%しかない沿岸性温帯雨林での暮らしの中で「森はひとつの生命体」であることを発見しました。例えば、数百m先の木が立ち枯れになるような虫にやられていたら別の木がその虫が嫌がるようなアロマを出したり、まわりの植物が守ったりすることがあるそうです。そのことで、人間のニューロンが動くときと全く同じ成分を、植物も出していることがわかってきました。これまで森がそれほどの知性を持っていると知らなかった人間は勝手なことをして大地をダメにしてきましたが、それは分相応を逸脱しています。
自律分散型ネットワーク社会を目指して
これまで推し進められてきた中央集権型社会とは、「権限と富は都会へ、リスクは地方に」「多様性を認めない効率重視による同質化」、そして「透明性の低下」でした。それを脱するには自律分散型ネットワーク社会にしていく必要があります。地域内の循環を高め、電気も食料もお金も自給率を上げていくことで、緊急時のリスクも下げられ自立していくことができます。
一番大切なのは、問題を知ってアクションを起こすか起こさないかです。何かを知っても「何もできないから今のままでいいや」となると問題の一部になってしまいますが、行動することが大切です。
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この後、視聴者からの質問でアマゾンと牛肉の問題、食料自給率の話、コロナ禍で生まれた環境の変化などにも言及がありました。
それに対して辻井さんは、気候変動や世界で起きている様々な問題も、「大きすぎて分からない。」で済ますのではなく自分ごととして考えるきっかけは、ごく身近な衣食住の中にもいくらでもあることをお話しくださいました。
森というと「林業」や「きこり」といったことをイメージしてしまいがちです。森の価値は木の値段以外のところにもあるのではないか…フォレストカレッジでは、業界や地域を超えて様々な角度から森が持つ可能性について共に学んでいけたらと考えています。
▽動画はこちらから。もしよろしければ、ご覧ください。
https://youtu.be/Ib7Yvk9-sMo