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Vol.3 都市から考える森のこと クロストークレポート

2022.02.09
Vol.3 都市から考える森のこと クロストークレポート

直感的な心地よさの先にある

森からの享受を意識化していく


■クロストークメンバープロフィール
<講師>
・田中 滉大さん
熊本県出身。早稲田大学文学部卒業後、(株)インフォバーン、(株)ビズリーチを経て建築クリエイティブスタジオNoMaDoSのCSOに就任。都市型サステナブルライフスタイルサービスslowzの立ち上げとプロデュースをはじめとした新規事業開発を行い、VOGUE JAPANやananなど有名メディアの注目を集める。そのほか、複数企業の取締役や顧問支援に従事している。

・新田 理恵さん
管理栄養士であり国際薬膳調理師。食生活のアップデートを目標に、料理とその周りにある関係や文化も一緒に提案し、大学や企業、市町村とコラボし、各地で講演やワークショップや商品開発・監修なども行う。 伝統茶ブランド{tabel}を2014年に立ち上げる。2016年8月にTABEL株式会社へと法人化し、薬草のある健やかな暮らしを提案している。2018年初春、薬草大学NORMを開校。著書「薬草のちから(晶文社)」。

 <地域プレイヤー>
・吉岡 秀幸さん
阿佐ヶ谷美術専門学校デザイン科卒業後、公園緑地、環境保全林等の設計事務所勤務等を経て、1999年横浜にてエコロジカルランドスケープデザイン事務所を開設。 2019年5月 伊那谷の環境と人に魅了され、伊那市に移住すると同時に事務所名を「とちどちランドスケープ室」に改称し、関東と2拠点でのデザイン活動を開始。RLA(登録ランドスケープアーキテクト)、一級造園施工管理技士。

 <ファシリテーター>
・奥田 悠史さん
三重県出身。信州大学農学部森林科学科卒。大学を休学しバックパッカーで世界一周旅行へ。帰国後、編集者・ライターを経て、2015年にデザイン事務所を立ち上げる。2016年「森をつくる暮らしをつくる」をミッションに掲げる株式会社やまとわの立ち上げ、現取締役/森林ディレクター。伊那谷フォレストカレッジを企画・運営。

人の営みが息づくような

庭や緑の場をデザインする

伊那谷フォレストカレッジの前2回講座、Vol.1住まい、Vol.2林業では、森側から考える課題の解決を醸成するクロストークをお伝えしてきました。Vol.3の今回は、都市側の生活から考える森のことを議論。まずは、講師の3人が活動のなかでキーワードとしている共通項、「心地よさ・楽しさ」の視点から議論をスタートしていきます。

森×住まいの伊那谷ツアーで訪れた“みんなの丘”のランドスケープ(吉岡さん作)>

奥田:情報をメッセージするだけではなく、3人とも嬉しい・楽しい・気持ちいいのような人の感情を呼び起こす事業・サービスをされていると感じています。吉岡さんは、「心地よさ・楽しさ」をどうデザインされていくのでしょうか?

吉岡:例えば、一番身近な自然といったら多分身体だと思うのですが、身体が喜ぶことを考えます。僕は、「心地よさ」という感覚を緑に関わったことで実感しました。僕が空間をデザインする時は、眺めるだけではなく、緑を生かすことを考えます。例えば、食べられる森や畑があったり、自分で草刈りをする部分があってそのやり方によって生き物が来ることを感じたり。身体で感じられる人の営みの場をいかにデザインするか。庭や空間をただつくるのではなく、そこに人が暮らし、生かされていくかの視点を大切にしています。

また、里地、里山、奥山がありますが、昔の人は奥山が聖域でした。同じ庭の中でも、奥山的な不可思議な領域と、生き物のための空間、人の生活のための空間といったようにゾーニングを意識します。

奥田:たしかに、里山や人の手が入った森は心地よさを感じますが、奥山や深い森では不安に思うことがあります。人の営みが息づいている森や緑を心地よく感じる部分には共感します。

吉岡:一方、奥山的空間もすごく大切で、小さい空間をデザインする時でもできるだけ奥山的な場所を配置します。大げさかもしれませんが、供給ポテンシャルの意味合いで、自然度が高くその土地の生命力を引き出す場のイメージです。

<吉岡さんがランドスケープを設計された都市農園>

食べることのベースには、

楽しさや心地よさがある

管理栄養士と国際薬膳調理師の資格を持ち、全国を回りながら薬草のある健やかな暮らしを提案している新田さんは、薬草茶をどのような視点、角度で伝えているのでしょうか。

< 伝統茶{tabel} webサイト >

奥田:まず、新田さんは、伝統茶や薬草茶を自社の[TABEL株式会社]で伝えられていますが、会社名はなぜ「飲む」ではなく「食べる(tabel)」なのでしょう?

新田:「食べる」の語源は「賜る」なので、植物や食べ物の命をいただく意味では、お茶を飲むことも「食べる」だと思っています。料理はスキルやキッチンが必要で手軽ではなく、苦手意識を持つ人もいますが、お茶はお湯を注ぐだけなので5分もあれば誰でも手軽にできる。でも、植物の力はパワフルだから少量でもエフェクトは感じられる。生姜を摂ったら身体がぽかぽかしてくるような身体の変化を感じられます。それだけでも、食べ物が自分の身体を左右している体感があると、その後の食に対する意識も変わっていく。その入口としてはお茶がいいと思っていて、今後は食生活に対するアプローチもしていきたいと思っています。

伝統茶{tabel}facebookより引用

奥田:健康茶は苦いイメージですが、どう美味しいに変えて伝えていくのでしょう?

新田:「楽しさ・美味しさ」の視点でいくと、私も初めは「楽しさ」とか表層的なイメージを打ち立てるのはどうなのだろうと思っていました。でもやっぱり、食べることは副交換神経を使う行為なので、長く続けていくためには楽しさや心地よさがベースにあると思っています。走りながら食べられなかったり、ピリピリしていると食欲が落ちたりもするのと同じで、ちゃんと食べるには心地良さが必要です。

楽しいことを継続していくことに意味や力があり、人を惹きつける魅力がでてくると感じています。人を惹きつける時に、ペインかゲインの2択になると思いますが、ペインの方は変に煽りたくもないしコロナのようなどうしようもない時に一致団結する方向でいいと思っていて。みんなでやろうとする時には、楽しそう感が大事だと思いますね。

奥田:薬草茶は、全てが美味しいわけではないと思いますが、楽しさで乗り越えていくのでしょうか?

新田:活かし方だと思っています。料理人の腕の見せ所やアイデアの出し方次第で乗り切れるところはいっぱいあると思います。 苦すぎて無理だと思うものも、お酒にいれたら美味しいとか、アイスクリームのアクセントにはいいといった感じです。

奥田:いいですね。一方では苦いだけなのだけど、他方違う使い方をすれば苦味を美味しく感じる。日本食もそうですよね、組み合わせで美味しく感じられる。この視点は、森を考える意味でも大事だと思います。

伝統茶{tabel} facebokより引用

直感的な心地よさから

サスティナビリティへの入口を

若干28歳、ミレニアル世代の田中さんは、都市型サステナブルライフスタイルサービス[slowz]を立ち上げ運営するなど、都市で多くのプロジェクトに主体的に取り組みながら、都市の人が心地よさに気づく装置を実装し続けています。

slowz webサイト

奥田:アンケート調査で日本人が「サスティナビリティは我慢である」という結果もでていましたが、田中さんは「サスティナビリティが心地よいから続く」という考え方に変えていこうとされていますよね。その場合の「心地よさ」は、どんな考え方をされているのですか?

田中:「心地よさ」と聞くと、リラックスや安心感の方にいくことが多いですが、それだけだと捉えていません。例えば、好奇心が湧く、ワクワクして楽しいも、心地よさだと思っています。[slowz]では、四象限に分けて考えています。縦軸の上がアッパーで下がニュートラル。アッパーは「気持ちが上がっていくこと」、ニュートラルは「落ち着いていくこと」。横軸がエモーショナルとインテレクチュアル。エモーショナルは「直感的にすぐ感じられること」、インテレクチュアルは「何か考えてみたくなること」や「考えがアフォーダンスされること」。そういった出会い、体験を心地よさだと考えています。

僕たちのサービスや会社がフォーカスしているのは都市。都市生活の中で、(心地よさを)感じられていない人たちに対して、どうしたら感じてもらえるきっかけを与えられるかが我々のチャレンジでもある。スタンスとしては、心地よさがあることでサスティナビリティにつなげていくところもあるが、まずは気づける状態になってもらえるようアプローチしていきたいと思っています。

(コンテンツを)選ぶ時もサスティナビリティに取り組んでいるから選ぶのではありません。編集部員は全員、Z世代とミレニアル世代で構成していて、まず行きたいところを選んでと言っています。「君たちが直感的に行きたいと思ったところが、どういったサスティナビリティに取り組んでいくか調べていこう」と、選び方のところから直感的です。

今後、ユーザー参加型のプロジェクトも作っていきますが、そこでも「サスティナビリティを学びましょう」とは出さないようにと考えています。僕がそういうのに参加したくないし、くどいなと思うし(笑) 今進めているのは、お坊さんとのコラボレーションで、屋台型の寺を作って街を練り歩くプロジェクト。街に違和感や気づくきっかけを実装して、そこから都市のしんどさや逆に心地よい体験を浮き彫りにさせたい。

奥田:いいですね。屋台型の箱庭的な森を作って、都市を練り歩いてみたい気持ちがでてきました(笑) 学ぼうという姿勢も必要だけど、気づいたらいつのまにか、森やお茶と関わっていたというのも大事ですよね。

心地よさ、楽しさの体感を軸に

森や自然へとつながっていく

サスティナビリティというワードや概念を先行するのではなく、あくまでも個人の直感としての「心地よさ」から活動することで、気づきにつなげてほしいという田中さんの話から、吉岡さん、新田さんがどう森や自然とつながっていったらいいかのヒントを醸成していきます。

奥田:吉岡さんは、「森の入口としての庭」という話もされていましたが、庭があるから森とつながるというか。

吉岡:そうですね。例えば、庭に小さな生き物がいて、ちょっとほくそ笑むようなことがあるんですね。前年に黄金虫が多量に発生したのですが、翌年に寄生蜂がたくさん来てくれて減ったことがありました。庭に触れていると、小さな生き物がいて助かったなとか、生き物がいて良かったなというようなほくそ笑みが、背後に広がっている森へ意識がつながっていく。僕自身は、そんな気づき方をしました。いきなり森っていわれても、よくわからなかったのかもしれない。

奥田:3人ともご自身の体験をもとに、「心地よさ」にどう気づいたかが軸にある感じがしますね。事業をやる時に、自分自身がどこに違和感があり、そこからどう気づくのかが大事ですね。新田さんは、著書も含めてすごく楽しそうな感じが伝わってきますが、本からも含め、今までの健康茶文脈からではない、違う層の流入はありますか?

新田:違う文脈から入ってくる人は多いですね。地域を活用したものを作ってみたいというソーシャル文脈や、他にも料理の世界で在来の食材が注目されている文脈で、ノーマ(noma)という「世界のベスト・レストラン50」で何度も1位を獲得しているレストランが、自分たちの面白い食文化を掘り起こして「野草やワイルドな動植物を食べること」も行っているので、世界的なトレンドの風もありますね。

奥田:どこで野草を採るかという点では、里山や森に入るきっかけになりますか?

新田:そうですね。北欧が羨ましいなと思うのは、スウェーデンなどでは「自然享受権」という権利があり、国が持っている野原や山で、個人が使う分なら好きに採集していいんですよ。ブルーベリーを自家用にバケツ一杯摘んで帰ることができたりする。日本だと山は誰かの所有で、非常にわかりづらいですよね。ここは使っていいよという場は、自分でも持ちたいしあるといいなと思いますね。

奥田:そうですよね。本当に、日本の山や森は入りづらいですね。いきなり森とつながるのは難しいと僕自身も思うので、つながっている人とリレー的につながるのが良さそうですね。

気づきの装置を散りばめて

森と都市をつなげていく

現状、森を意識していない都市側の人や森から遠い人は、どうやって森とつながっていけばいいのか。都市の人に向け、サスティナビリティに気づいてもらうプロジェクトを行う田中さんの話から、今回のテーマ「都市から考える森のこと」に迫っていきます。

奥田:田中さんのように、普段森が関係ない都市の人たちに、森の可能性を伝えるためにはどうしたらいいでしょう?

田中:僕たちは地球上に住んでいるので、森とのネットワークは必ずあると思います。その糸が弱い、感じ方が弱いだけで。僕たちは森のものを食べていますし、家具が木製なら森から来ている。slowzでは、色々な方向性で気づきを与えることを軸に置いています。森に対しても、ネットワークの糸を太くしていくことで、都市からのアプローチもできると思っています。

フォレストカレッジのみなさんは、森に開かれている感じがしますが、僕も10年ほど東京にいるので思うのですが、都市生活を長くしているとそういう気になれない人も大量にいるんですよね。その方たちに「森いいから」といっても「知らねーよ」ってなるわけです(笑)。でもそれは、僕にとってのリアルでした。良いことを言っても、良いことを聞く体制になっていない人にとっては毒になる。僕は、伝え方のデザインはすごく大事だと思います。

僕たちは「サスティナビリティを学びましょう」とは言わない。体験の中でプロセスをサスティナビリティにすることを大事にしようと思っています。体験の入口がサスティナビリティでなくても、結果サスティナビリティを学べていたという状態を作る。サスティナビリティをジャンルじゃなく、モードとして考える感覚でやっていますね。

奥田:いくつかのステップが確実に必要ですね。急に森に放り込むのも一つのやり方ではありますが、美味しいから飲んでいたお茶が森の恵みだったり、使っていた家具の木の産地を知ったり、美味しい野菜から農家さんを知るような。そういうところから意識が自然や自然と共に生きる人に向いていき、それを聞くモードになり、より深い学びや心地よさが生まれてくるのでしょうね。

都市から考える森のことに寄せて

最後に、一言ずつメッセージをいただきました。

吉岡:都市と森のテーマから考えると、僕も横浜から伊那谷に移住して思うのですが、地方の人は森が近くにあっても価値がわかっていない人もいる。逆に、都市の人の方が森に憧れがあったりする。地方に都市の人が来ることで、森の凄さが地方の人に意識化されることがあったり、地方の人の森が近い暮らしが都市の人の刺激になることもある。森や自然は無意識に近いものだと思うので、双方が行き来し交流することで、双方が意識化していくことが大事。僕も小さい人工的な庭や誰も見向きもしない虫から森を意識化しました。無意識なものを意識に上げていくことは面白く、大事になっていくと思います。

新田:自分が何をしたいか、何がワクワクできるかは大事だと思います。土の人や風の人という言い方もしますが、土地に根差してやっていく土の人と、交流をつくる役割を担う風の人がいたりして、どちらが正解なのではなく、結局自分の心地よさや自分らしく力を発揮できる立ち回り方ができる状況を作れるかが鍵になると思います。また、植物の面白さは、人間だけでは成し得なかったことを植物は安易とやってしまうところ。色々な薬草を見ていると失恋に効く薬がエストニアにあったり(笑) 、病気が治るようなミラクルも起こっていく。想像外のカオスを手に入れる、味方につける、寄り添うような感覚が面白いので、自然との距離感を楽しんでみていただけたらと思います。

田中:僕は比較的都市側のアプローチをしているのですが、先ほど吉岡さんが言われた森が無意識に需要されている話で、正直都市も無意識に需要されていると思います。みんなあんまり疑問に思わなかったり、当たり前に過ごしていることの中にしんどさの源泉があったりする。新田さんが言われたようにそもそも自分がやりたいかというのも絡むと思うのですが、なんで大事なのか、なんでこうなっているのか思うこと、それが全てのスタートラインじゃないかと思う。気候変動という大きな問題でも何でこの解決策をやらなきゃいけないのか心から考えたり、日常の中で会社いくのが何でしんどいんだろうと思ったり。大きなWHYを出していくことが、当たり前のところから意識化していくきっかけだと思います。僕たちはそれを気づきと呼んできっかけとして実装できればいいと思っています。それができるようになったら、今回のテーマであるように、もっと活発に森と人、森と都市の関係性を考える人そのものが増えると思いました。今後、そういった機会も作っていけたらと思っているので、引き続きよろしくお願いします。

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