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自然を活かす「ものづくり」とは|後編

2021.02.03
自然を活かす「ものづくり」とは|後編

12月5日に行われた第1回目の講座「自然を活かすものづくりとは」をご紹介しています。後編の今回は、講師陣のクロストークの様子をレポートします。
前半の記事は、こちらからご覧ください。

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伊那をめぐり、語り合う「森とものづくりの糸口」

伊那谷を巡るツアーを終え、午後には3人のクロストークを開催。普段から、「森とものづくり」を生業にしている3人が、伊那のものづくり現場を共に感じたことで、モードを合わせて、共通項とこれからの可能性を見出していきました。(伊那ツアーの記事は、こちらからご覧ください)

地域にあるものを活かし生まれる個性

事務局でファシリテーターを務める奥田さんの「伊那巡りツアーから、ものづくりのヒントはありましたか?」という投げかけからスタート。

麹室
会社概要(仙醸webより引用/https://www.senjyo.co.jp/

松本さんは、他業種の仙醸から、ものづくりに通底する部分の気づきを得たと話します。「仙醸さんの酒造りは、米の発酵文化をしっかり未来に残していきたいという想いがあってのこと。減っている日本酒消費量にこだわるのではなくて、日本酒づくりの技術や、地域にある様々な資源も含めて、今あるものを残していこうという考えは、森林資源や木材にも通じるところがあると感じ、非常に感銘を受けました」。それは、やまとわの経木が、伝統的な昔からの技術を復活させていることにも通ずる部分でした。

丸尾さんも仙醸の「今あるものを活かしきる」という言葉が一番印象的だったそう。「この姿勢が、地域ごとの“らしさ”につながっていくことのように見えた。木材も伊那谷にはアカマツ、飛騨には広葉樹、木がないうちにはうちなりの話があって。みんなにそれぞれのストーリーがある」。

ホスト側である中村さんは、仙醸の工場を訪れ黒河内さんの話を深く聞いたのは、初めてだったそう。「山の伏流水、米、場所よって水が違うなど、森にも通ずる部分があって、やはりすべてのものが循環していると感じた」。

木工製品をつくる「やまとわ」と老舗酒造りメーカーである「仙醸」、素材も、商品も違う2社。今回、2社を巡ったことで醸成されたテーマは、ものづくりの根幹に通じている部分でした。

森のレッスンと山観日(飛騨の森で熊は踊るwebより引用/https://hidakuma.com/

各々の現場で感じる木を活かす大変さ

木工職人としてスタートし、木に関わることで自分も山で木を伐り始めた、やまとわの中村さん。「木がどれだけ重たいか、どれだけ大変か、体感している。だからこそ、ものづくりに感じる、ずしっとくるような苦しみみたいなものは、すごくある」といいます。自社では、プロダクトを作るところまで手掛けているので、その上で「立場が違うとものづくりに対する目線が違うと思っている」と続けます。

丸尾さんは、自分の担っている部分は、もう少し消費者側に近いという気づきがあったと話します。「私の仕事は、加工する部分に重きがある。食べ物でいうと畑の話というよりキッチンの話という感じです」。その立場で、日々格闘しているのは、工業化された製品との戦い。建材、エクステリア材に多いMDF(中密度繊維板)ではなく、そのままの木の良さを伝えていきたいといいます。

木の個性を見出し、一点もののプロダクトを様々な人と組みながら生み出している松本さん。「山の中から木を選んで、一本ずつ出してくることは、本当に大変なこと。例えば、1本の木を選んで、普段の10倍高く買いますよっていわれても、その手間、コストを考えたら、難しいことが多い」と実感を込めます。

木と暮らす、家(KITOKURAS webより引用/http://kitokuras.jp/

100の仕事とともに、100の出口を創造する

大変だから、現状を変えない。それで止まってしまっては木が活きないと、3人の普段の実感から議論は展開されていきます。

今回、フォレストカレッジが掲げている「森に関わる100の仕事をつくるというところに、共感している」と松本さん。「1本1本ばらばらで、多様な木。例えば、この形しか使えないとなれば、残りの99は使えないものになるか、もしくは1に合わせるようになる。ただ、出口側つまり使い手側が100パターンあればまたマッチングできるじゃないか」と見出します。

そして、「木の多様性にあわせるには、大量生産をメインとした機械化はマッチしない。効率化されても、一つのパターンしかできない。木に合わせて活かしていくことができる、職人が大切だといつも思っている」と続けます。

丸尾さんは、木編の漢字の話から100の仕事への可能性を提示してくれました。「日本の漢字で、三水に続き多いのが木編。椿など木の種類、杓など木の道具、杖など木で作られた製品、村といった組織から、楽といった感情まで。木は、日本にたくさんある素材で、昔からそれに頼って生活してきた。エネルギーも道具も、組織すらも。日本人が、木とともに生活してきた民族であるならば、またもそれをやってみるのもそんなに難しいことじゃないと思っている」。

それを受けて奥田さんが、「そんな観点も深掘りしていくと、色々な仕事が生まれるかもしれませんね。もしくは、なくなってしまった仕事を現代に蘇らせるか。経木はまさにそれです」。今の時代だからこそ、必要とされる仕事が出てくるかもしれないと、木とものづくりへのヒントが生まれていきます。

信州経木Shiki(やまとわwebより引用/https://ssl.yamatowa.co.jp/

伊那谷の森とものづくりに寄せて

初回の講座から、森と森じゃないものをかけ合わせてみえてきた、可能性。それぞれの講師に、伊那谷の森とものづくりから今回の議論の着地の見解をいただきました。

丸尾さんは、「やはり、今あるものを活かしきるがすべてなのかなと思う。あとは、どの現場もそうだと思いますが、好きだったら、なんでもできる。好きなことってものすごいパワーが生まれてくる。今、置かれた場所でがんばること、そして好きなことをして生きること。人が動けば、化学反応で何か生まれてくると思うので、この先もみなさんと何かつながりが持てればいい」と結んでくれました。

松本さんは、「丸尾さんに全部いわれてしまった笑。同じです。森によって状況、まわりの環境も違うので、それぞれでできること、そこにあるものを使い切れば、おのずとそれが個性になる」。

中村さんも「同じ感想笑。飛騨の広葉樹があるからまちづくりになる。丸尾さんのところは木がないことが強みになっている。伊那は確かに素晴らしい木はそんなに育っていないが、マツはたくさん育っている。そして、自分が持っていないものを持っている人とつながっていけば、道は開けると思った」。

最後に、ファシリテーターの奥田さんが、「その地域のものを活かすと言うところに、いろんな人の意見や知恵がはいっていくことが大事だなと改めて思いました」と、締め括りました。

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【講師プロフィール】

株式会社飛騨の森でクマは踊る https://hidakuma.com/
代表取締役COO 松本 剛さん

環境事業会社勤務を経て、2019年、株式会社トビムシに参画。
2015年、岐阜県飛騨市に飛騨市と株式会社トビムシと株式会社ロフトワークで官民共同事業体「株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)」を設立、取締役就任。
2016年、古民家を改装した滞在型ものづくりカフェ「FabCafe Hida」をオープン。
2019年より現職。
世界中の様々な人たちが飛騨の森に関わる場と機会をつくり、その人々と個性豊かな広葉樹と飛騨の匠の技をかけあわせ、それぞれの都合とらしさを活かした持続可能なものづくりに取り組んでいる。

KITOKURAS http://kitokuras.jp/
代表 丸尾 有記さん

飛騨・大阪・東京でプロダクトなどのデザインに携わったのち、2010年より実家である、材木屋、山一木材(香川県)の三代目としてKITOKURSというプロジェクトを立ち上げる。
材木屋にカフェ・日用品・家具ギャラリー・設計室などを併設し、「木と暮らす」ことを伝えることについて取り組んでいる。
携わった主なプロジェクト
・more trees(木のブローチ、プランターなど)
・KITOKURAS(一輪挿し、百年杉トレイ、国分寺K邸〈住宅〉など)


株式会社やまとわ https://ssl.yamatowa.co.jp/
取締役代表 中村 博さん

長野県伊那市出身。
高校卒業後、郵便局員を経て木工職人の道へ。
地域の木材で木製品をつくることは職人ができる森林整備ではないかと考え、2002年より伊那谷産木材に特化した木工に取組む。
2016年10月、「森をつくる暮らしをつくる」会社、株式会社やまとわを設立。
プライベートでは、かんな削りの技術を競う全国的な組織である「削ろう会」の活動や、地元有志と共に週末林業を通した地域づくりにも取り組んでいる。
・家具手加工1級技能士
・西地区環境整備隊隊長
・伊那市50年の森林ビジョン推進委員
・第35回全国削ろう会信州伊那大会実行委員長

▼ 伊那谷ツアーvol.1の様子が映像になりました!

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